(8・27公演リポート)「歓喜一心、天に通ず」

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以下、各ページの文字情報です。

①柳原成寿

ダークホース。

失礼ながらそう考えていたのは私だけではあるまい。筆者は柳原の演技を今回初めて観ることとなったが、他の三者に比べてキャリアも実力も未知数であり、どこまでやれるのかというのが正直な思いだった。

しかしそれは杞憂であった。結果として他の演者が演劇、落語、朗読というスタイルだったのに対し、柳原だけはいわゆる「怪談語り」という形式で、オープニングステージとして場の空気をしっかりと作り上げることに成功していた。内容も柳原自身が幼少期に体験した(あくまでそれが本当の話なら、ではあるが)不思議な話であった。夢の話なので首尾一貫した筋は通っていないのだが、かつて住んでいた家の間取りや途中で思い出すように差し込まれるちょっとした注釈など、荒唐無稽さの中に何とも言えないリアリティがあった。

観客投票でも(失礼だが)予想を覆して第2ラウンドとなる一四時回ではトップ得票となるなど明らかに爪痕を残したと言える。今後も「プロゲキ!」に参加する可能性も十分あるだろう。柳原成寿。彼は決して「かませ犬」などではなかった。これからの彼の活躍に要注目である。

(継木承一郎)

②髙輪眞知子

「あんたさん。」

暗闇の中で髙輪の第一声が聞こえた時、自分に呼びかけられたのではないかと思わずドキリとした。手元の小さな明りがほんのり彼女の顔や姿を浮かび上がらせる中、彼女は台本を読んでいる。読んでいるのだから目線も下を向いているはずなのだが、どうしてもこちらに語り掛けてきているように感じるのだ。親しげで、人懐っこい呼びかけに否応なく耳を傾けてしまう。そこにまずは恐ろしさを感じた。

髙輪が演じているのは能登に住む一人の素朴な漁師であった。どこにでもいる程度に気が荒く、いい加減で、気が弱い。そんな平凡な男が自分の蔵を掃除しようと中に入り、そこに蠢く無数のなめくじを駆除するために塩を撒く。ドロドロに溶けていくなめくじ。そこに妻が帰ってきて口論の末に男は妻を裸にして蔵の中に放り込む。すると妻もなめくじのように溶けてなくなってしまったのだ。その事実を隠すために海に逃げた男だったが、彼もまた体に異変をきたしていく。気がつけば男は海に漂うくらげとなってしまったのだ。

「また明日」その言葉の持つ意味を考え、最後にもう一度ぞっとした。

(継木承一郎)

③かはづ亭みなみ

美空ひばりの「車屋さん」のメロディーに乗って小粋に舞ったオープニング。そこには彼女の持つコケティッシュさがふんだんに表現されていた。ところが本編となる古典落語「死神」では、着物を着替えたついでに中身も変わってしまったのではないかと思わせるほど、一味違った魅力にあふれていた。

何をやっても上手くいかずいっそ死んでしまおうかと考えていた男のもとに突然死神が現れて、医者になれと勧める。患者の枕元に死神がいれば助からないが、足元に死神がいるときには呪文を唱えれば死神は消え、患者の病は治ってしまうというのだ。降ってわいた幸運をつかんで金持ちになった男だったが、そのうち診る患者がすべて死神が枕元にいて治せない。困り果てて最後に男が考えた方法は、死神が決してやってはいけないと釘を刺していたものだった。

だらしはないが気のいい男が、金に目がくらみ転落していく様を見事に演じ切ったかはづ亭みなみ。彼女によればこのネタは今回がネタ卸ろしとのこと。貴重な高座を聞けて非常に満足すると同時に、今回観客投票で惜しくも井口に敗れたリベンジをぜひ再び「プロゲキ!」で見せてもらいたいと心から感じた。

(継木承一郎)

④井口時次郎

薄氷の勝利。「プロゲキ!」代表として初めての観客投票で負けるわけにはいかない。そんな思いが舞台上にみなぎっていた。

作品は井口時次郎が知り合いの女性から聞いた話という体裁は取っていたものの、おそらくは三島由紀夫の『近代能楽集』あるいはその原典となる『源氏物語』から六条御息所が葵上を呪い殺す箇所を下敷きに創作したものと思われる。恋愛におけるパワーバランスが狂ったとき、人は理性を忘れ情念の虜となって生霊となる。現実の苦しさが心の中で増幅して自分でも気がつかないうちに異形の姿をなしてしまう。このあたりは「純愛とキモ愛のはざま」(プロゲキ旗揚げ公演での上演作品)で演じたコンビニ店員に恋をするしがないサラリーマンの姿を思い起こさせたが、むしろ今回の作品では自分が生霊となって嫉妬や未練の炎に焼かれているという自覚が本人にあるだけに苦悩がより深まっていたように思えた。

最終結果で勝利がコールされたとき、心からの歓喜と安堵をその表情から見ることができた。演者にとっては非常に厳しい戦いとなるかもしれないが観る側からすればそこが最大の観どころと言える。今後も観客投票はぜひ採用してもらいたい。  (継木承一郎)

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