※以下、文字情報です。
①姫川あゆり&市川由紀乃
これまで何度かプロゲキに出演し、ダンスや身体表現を前面に出した若手のホープ姫川あゆり。そして金沢学院大学演劇部でFutureStageを沸かせた市川由紀乃。この二人がタッグを組んでとなると、若さ溢れるさわやかな作品を想像していた。いや、さわやかさはあった。しかし、思っていたのとは大きく異なり、彼女たちが演じたのは母親の再婚をめぐる姉妹の心情を実に丁寧に描いた会話劇だった。
姫川は実年齢では年下ではないかと思うが、舞台上ではしっかりした姉を演じながら、それでいて「お姉ちゃん」の屈折を感じさせた。踊る場面がなくても自分らしさを発揮できる、そんな強い意志を感じさせる好演だった。
さらに驚かされたのは市川である。目線や体のあり方を微妙に操ることで心の揺れを的確に表現していた。セリフも動きもあらかじめ決められているはずだが、いま、まさにその場で言葉が発せられ、感情が揺れ動いているように私には見えた。
彼女たちはこれからもプロゲキの舞台に立っていくだろう。その初めての共演を目撃したことを私はいつか自慢できるかもしれない。彼女たちの存在は間違いなくプロゲキの未来であり希望である。 (継木承一郎)
②杏亭キリギリス
落語は噺家が座布団に座り、語りひとつでさまざまな情景を浮かび上がらせる「話芸」である。
もちろん杏亭キリギリスの落語も例外ではない。着物を着、手ぬぐいと扇子を小道具に座ったままで演じられる。しかし、彼の語りには強い身体性が感じられる。 今回演じられた「大工調べ」ではクライマックスで大工の棟梁政五郎が長屋の大家に啖呵を切るのだが、その口上は語りというよりも身体から溢れるエネルギーの放出とでも言うべきものであった。よく「腹から声を出せ」などと言ったりするが、腹どころか身体中から声が飛び出してくるように感じるのだ。そしてさらに杏亭の落語を魅力的にしているのは、彼のどこか諦観したような眼差しである。物事すべてを俯瞰で観ているような静かな目。そこから圧倒的な身体に裏打ちされた言葉が繰り出されるアンバランスで危うさを感じさせる部分が、劇場というライブ空間にはたまらなくマッチするのだ。
冒頭マクラの部分で落語をやるようになるまでの彼の経歴が軽妙に語られるのだが、よくよく聞けばなかなかハードで笑いごとではないような部分もある。ともかく、一筋縄ではいかない男。それが杏亭キリギリスである。
(継木承一郎)
③井口時次郎
野球が苦手でいじめられっ子の小学生と一度はプロ野球の世界に入ったものの夢破れ大成できなかった過去を持つ老人。不思議な力で二人の体が入れ替わり、老人の体になってしまった少年が、家に飛び込んだボールを返す時にめちゃくちゃ説教を加えるほどに野球を憎む「恐怖じいさん」の心に眠る野球への想いを知る。そんな中、少年(中身は老人)は生まれて初めてのホームランを放つ ーーー
ストーリーとしては失礼ながらありがちな話であるし、二人の体が入れ替わるシーンでは「入れ替わりと言えば」のあの曲が流れる。言ってみれば予定調和のオンパレードである。後で冷静になって考えれば確かにそうなのだが、観ている時にはなぜか引き込まれるものがあった。
それはおそらく、芝居を始めたころの少年の心を持ちながら、実年齢では体の衰えを感じ始めているであろう井口の姿が、少年と老人に重なるからだろう。そしてそう見えたのは私(筆者)自身も同世代だからではないか。
杏亭との対決に敗れうちひしがれる井口。しかし老け込むにはまだ早い。プロゲキはまだ始まったばかりだ。 特大ホームランは、まだ観ていない。
(継木承一郎)
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