(10・20公演リポート)架け橋となれ

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山根ほのか

山根ほのか。19才。今年4月の公演でFutureStageに登場し、その独特の世界観で本編出場を勝ち取った。

彼女の芝居を観ると、大人(いや当人ももちろん成年なのだが)が疑問を持たず蓋をしているものを拾い上げて冷静に観察しているような印象を持つ。

今作「あなたのこと、知れて嬉しい。」では隣人の荷物を代わりに受け取った主人公が、回数を重ねるうちに置き鍵で家に入り、クール宅配便の荷物を冷凍庫に入れ、中身を確認するために引き出しを開け、目に入ったという理由でカレンダーをチェックするというように隣の「あなた」のことをどんどん知っていく。知ってどうするわけではない。ただ知れて「嬉しい」のだ。

「○○を知っていても、おかしくない。」と彼女は繰り返す。違法行為をする意思はない。引き返せるところで楽しみたい。しかし、第三者が見れば明らかにおかしなところにまで踏み込んでしまっている。

どうしようもなく愚かで壊れた主人公だが、彼女と私たちは間違いなく地続きである。私たちはみな愚かで壊れているのだ。それをクールな視線で描く技はチェーホフを髣髴とさせる。今後の彼女から目が離せない。

                                       (継木承一郎)

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慈幸友香

大阪から若手女優がやってくる。しかも「PoPSHoW」と銘打った公演に。こうなるとどうしたってお笑い要素の強いコテコテの作品が来るのではないかと良くも悪くも期待していた。

その点では良くも悪くも私の予想や期待は裏切られたといえる。彼女の作品「ソノトキノキモチ」は、別にコテコテの関西ノリの作品ではなかった。正直、思っていたほど笑えなかった。しかし、思っていたほど嫌な気もしなかった。それは「おもろいこと」を無理やりにやっている感じがしなかったからではないだろうか。19才の大学生が日々経験する出来事をまるで絵日記のように描いた本作品には、彼女自身が身にまとう素材そのままの面白さがあった。困ったり、毒づいたり、やる気をなくしたり、それでも前を向いたり。「特別じゃないどこにでもいる女の子」がそこにはいた。だが、それを舞台上で行うことは決して「特別じゃないどこにでもいる女の子」にできることではない。

私はこの作品を観て、もっと彼女のことが知りたくなった。それは、失われてしまった若かりし自分に出会いたいという決してかなうことのない願望からかもしれない。

                                       (継木承一郎)

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井口時次郎

「怪談」は8月にやったばかりだというのに、今回井口はあえて「怪談」を持ってきた。20年以上前に井口本人が体験した実話だそうだ。自宅で酒を飲んでいたら携帯電話が非通知設定尾で鳴る。最初は気にも留めなかったが、毎晩0時きっかりにかかってくるので気味が悪くなり、非通知拒否設定にしたところ、ひと晩に何度もかかってくるようになった。そのうち車にペンキをたらされたり、自宅のインターホンのボタンにボンドを塗られたりと嫌がらせがエスカレートしていくが、最後には玄関に小さく「バカ」と落書きがなされすべてが終わったという話だった。確かに現在であれば間違いなくストーカー被害と言える内容だが、当時では警察にもまったく取り合ってもらえなかったという。

私が興味深く思ったのは、「防犯カメラをつけたかったが、犯人がわかったしまったらショックで立ち直れない」という部分だった。自分の知り合いから明確な悪意を向けられることは、見も知らぬストーカーの恐怖よりはるかに大きいということだ。知りたいが知りたくない。井口の怪談は「人間の弱さ」を浮き彫りにしていた。

 今回の公演に井口はキャラクターを演じる一人芝居ではなく、自身の経験を語る「一人語り」ともいうべきスタイルで臨んだ。リアリティがあり、観客に語りかける箇所も多いので親しみやすいのは確かだが、演劇としての作り込みや井口の持ち味であるエモーショナルな表現という点では少し物足りなさも感じた。ここ数回、観客投票では結果を出せていない井口だが、次回は昨年敗北した因縁の風李一成との再戦である。これまでのプロゲキでの経験を十分活かし、「名勝負」を観せてもらいたい。

また今回のFutureStageには劇団やてみよが参戦。富山で本編に出場している実力をしっかりと発揮した。                                     (継木承一郎)

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