【コラム】ジンクスなんてまだ早い

「プロゲキ!」2年目に向けてという内容でコラムの依頼を受けた。

1年目は全ての公演を観て「月刊プロゲキ!」の記事も担当したが、こうしたコラムの形ははじめてとなる。一体誰に向けてどんな文章を書いたものか。

井口氏から「プロゲキ!」構想について初めて聞かされたのは2023年の年明け早々だったように記憶している。「生身の人間が目の前で笑ったり泣いたりする様をもっとたくさんの人に観てほしい」という彼の言葉につい心を揺さぶられてしまい、月刊プロゲキの記事を書くことになった。

2023年の5本の公演を観て、彼のイメージはずいぶん変わった。打ち合わせやメールなどではどちらかといえば理詰めに話を進める井口氏だが、公演となると感情をあらわにし、8月の「怪談」で勝利した時には大人げなく喜び、12月の「vs X.(バーサスエックス)」で風李一成氏に敗れたときには演技ではなく心底悔しがっていた。50歳の大人に言うのは申し訳ないが、大人と子どもが同居したような、やはりちょっと変わった人だなと今は思っている。

さて、2年目の「プロゲキ!」はどうなるのか。

私が1年目に最もドキドキしたのは、女優・高輪眞知子が登場したところだった。彼女は金沢で現在活躍する俳優の中でも最ベテランの一人であり、普段は浅野川倶楽部というサークルを主宰して文学作品の朗読を中心に活動している。8月の「怪談」でも半村良の短編を朗読したのだが、登場シーンではざるで小豆を揺らした波の音をバックに現れ、明りもない闇の中から観客に「あんたさん。」と呼び掛けてきた。この時にはまさに背筋がゾッとした。若い演劇人や観客に金沢にこんな俳優がいるということを知らしめるに十分な演技だった。

高輪氏や風李氏を「プロゲキ!」の舞台にあげたことから、制作者としての井口の力量にはとりあえず1年目は合格点をつけたい。彼らレジェンド(とあえて言いたい)俳優と、姫川あゆりや演劇ユニット浪漫好など若手の俳優たちが交流することで新しい何かが生まれるかもしれない。そんな期待感が1年目の「プロゲキ!」には確かにあった。

しかし2年目はこれをさらに上回る必要がある。

ひとつには10月公演で富山県の石川雄士氏を出演させたように、ふだん金沢では観られない俳優をどんどん舞台にあげてもらいたい。俗っぽい話にはなるが「たくさんの人に観てもらう」のに即効性があるのは、いわゆるネームバリューのある俳優の出演は魅力的である。

もうひとつは観客投票による「演劇バトル」のさらなる導入である。そもそも演劇に勝ち負けをつけることは難しい。観客投票が絶対ということももちろんない。しかし、やはり勝負が見たいのだ。勝って喜ぶ姿も、負けて傷つく姿も、当事者には辛いかもしれないが観客にとっては俳優の素の表情が見える貴重なシーンである。若手によるベテラン超え、同世代のライバル対決など、まだまだ期待できるカードは少なくない。

とにかく、私はもっと「生身の人間が目の前で笑ったり泣いたりする様」を観てみたいのだ。もっと刺激的に、もっと楽しく、もっとたくさんの人に。もっと、もっと、もっとだ。

「2年目のジンクス」なんて言ってる場合ではない。

そう、ジンクスなんてまだ早い。

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