※以下、文字情報です。
今年3月にスタートしたプロゲキ富山公演。今回はMCを担当した私、井口がリポートします。
富山駅から徒歩5分。流行りの居酒屋の隣の細い階段を登って劇場に入る。舞台の後ろには大きな窓。昼公演では太陽の光が思いっきり入ってくる。開演前に演者スタッフ総出で不織布を貼り付けて遮光をする。とにかく「みんなで」やる。こうしたところからライブは始まっているのだ。
準備も整い、いよいよ開演。テーマ曲に乗ってそれぞれの演者が入場してくる。小さな会場が期待で膨れ上がる瞬間だ。私もささやかながら入場を盛り上げる。
1st Stageは劇団やてみよ。略して堀田が一人で舞台に立つ。その姿はそのあたりを歩いていた青年がふらっと迷い込んだかのよう。自然体でやわらかな口調で話し出す。内容は不条理テイストのショートコント集だ。トイレを貸すアルバイト、謎の商店街など独特の雰囲気が印象的だった。
2nd Stageはゆず子と杉ちゃんの音楽ライブ。富山公演では前回も元井康平氏によるコンテンポラリーダンスの要素を持った作品が上演された。このあたりは金沢とは違う独自性が見られる。プロデューサーとしては、金沢公演でも音楽やダンス、舞踏などさまざまなライブパフォーマンスを展開したいと考えている。それくらい、ゆず子と杉ちゃんのパフォーマンスは心を揺さぶられた。情熱的で感情をあらわに歌うゆず子はもちろんだが、クールなギターに似合わず歌やトークはピュアな杉ちゃんが素晴らしかった。とにかく二人は「いいやつ」なのだ。もちろん、今回現場で少しばかり話しただけで、彼らが本当はどんな人なのかは知らない。それでも絶対に「いいやつ」にちがいない。それはライブを聴けばわかるのだ。そう信じさせてくれるものが確かにあった。
セミファイナルはび~めんぶろじぇくと。「今回は白塗りじゃない」と聞いていたが、内容は不条理ではあるものの表現としては新劇に近い会話劇であることに驚かされた。何でもできるのかこの人たち。「夢を語り合う会」という謎のグループがそれぞれ自分の見た夢を語り合う。中学校の先生が人面犬になった話、知らない部屋でコアラのマーチを並べる話、冬山で遭難し、たどり着いた山小屋で眠らないように小屋の中を歩き回る話、そしてつぶれた病院から自分のカルテを持ち出す話と、不思議ではあるがなぜか説得力がある話が展開し、その間に「もう一人のメンバー」から何度も電話がかかってくる。しかしその人物はすでに亡くなっている人物である。夢なのか現実なのかが次第にあいまいになっていく怖さと心地良さが同時に迫り、確かな実力が感じられた。
そしてメインは金沢から参戦した風李一成。作品は芥川龍之介の「或る阿呆の一生」をリメイクしたものだった。
風李氏得意の観客を煙に巻くような語り口で次々と場面が展開していく。客席がグイグイ引き寄せられていくのがわかる。引っ張り、かわし、すり抜ける。
プロゲキ!はプロレスと演劇を合わせた造語だが、風李氏のステージは実にプロレス的だ。対戦相手こそいないが観客と戦っているのだ。そしてその戦いに勝ち続けているからこそ、彼は今も舞台に立っている。
それは劇団やてみよも、ゆず子と杉ちゃんも、び~めんぷろじぇくとも同じだ。舞台に立つ者はみな戦っている。それがLIVEなのだ。
LIVEでしか伝えられないものがある。今回の富山公演はそのことを再認識する舞台だった。
(井口時次郎)
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