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【総評】
今回のプロゲキ!富山公演も実に興味深いラインナップが揃った。「ゆず子と杉ちゃん」で情熱溢れる歌声を披露した真昼野ゆず子。今ノリにノッている富山大学お笑いサークル‘97。スパニッシュギターのショルヘーノとパーカッションのすずきかのんによるスパニッシュスープレックス。そしてメインはこの春から東京へと旅立つ姫川あゆり。音楽、お笑い、一人芝居とジャンルもさまざまだが、そのすべてにおいて現実と劇空間が交差する「虚実皮膜のバラエティ」と呼べるステージとなった。特にスパニッシュスープレックスは昨年9月の公演でもショルヘーノ単独で登場した(注:筆者は未見、無念)が、今回はすずきかのんも参戦し、音楽ライブでありながら非常に演劇的なステージを展開した。
小屋主である石川雄士が4月1日から富山シティエフエムで番組を持つなど、その勢いはまだまだ止まらない。
(継木承一郎)
【真昼野ゆず子】
明りがつくと、着ぐるみのような服を着た女性が座っている。机を挟んでなにか相談をしているようだ。しばらく話を聞いていると、ここはハローワークであり彼女は仕事を求めて担当の職員と話をしていることがわかる。
職員と話をする過程で彼女のこれまでの半生が語られる。曰く、何か仕事に就いても長続きがしないこと。いろんな所でいじめられたり人間関係につまづいてきたということ。
そしてそんな彼女はアイドルのライブを観るや「自分もアイドルになろう」と思い至る。着ぐるみを着た彼女の語りを聞いていると「そりゃ無理だろ」と思うのだが、なんと彼女はアイドルのオーディションに受かってしまう。しかしそこで体験したのは、やはり他者と比べて至らない自分と否応なく向き合わされることだった。
アイドルになりきれなずにグループを脱退した自分は、いわば蝶になりきれないさなぎだ。羽化することなく朽ち果てていくさなぎ。堅い殻の中で眠り続ける「蝶になるはずの自分。」
ハローワークの職員の前で衣裳を着て歌い踊る彼女の姿に、現代日本に潜む無数のさなぎたちの叫びを見たように思った。
(継木承一郎)
【富大お笑いサークル’95】
あれ?と違和感を感じた理由はすぐに分かった。このネタ観たことがあった。しかもこの会場。前回のプロゲキのステージだ。(ちなみに「森のカフェ」のネタ)ちょっとちょっと手抜きじゃないの?と思ったが、しばらくしてそれは間違いだと気がついた。地方のアマチュア演劇(という言い方も好きではないのだが)の場合、毎回新作が求められる。ほぼ手売りで埋められた客席であれば、同じネタはNGだろう。故に生煮えの作品が次々と生まれそして消えていく。
聞けば彼らは最近「学生お笑い」というカテゴリーで注目を集めているらしい。舞台を務める機会も多くなっているだろう。であれば、同じネタを繰り返し客前で演じることでブラッシュアップしていくことは意味のあることだろう。もちろん、1本を除いた他のネタはすべて新作であり、クリエイティブ能力も十分だ。
次々とコンビを変えセンターマイクの前でしゃべり続ける彼らにライブパフォーマンスの光を感じた。芝居だとか漫才だとか、そんな線引きはどうでもいい。客は面白いものが観たいのだ。
明日、いつものように仕事に行くために。
明日、いつもとは違った世界に踏み出すために。
彼らのステージがどちらのタイプかはまだわからない。しかし、確かに彼らはその端緒にいる。
(継木承一郎)
【スパニッシュスープレックス】
昨年9月のプロゲキ富山公演は残念ながら観ることができなかった。だが、その時から私の直感アンテナがビンビン反応していたのを覚えている。金沢と違い富山ではダンスや音楽もプロゲキでは上演されているが、門外漢の私にもどこか演劇的な臭いを感じられるステージが多い。そして今回ついにショルヘーノを観た!しかも自作のマスクとコスチュームに身を包んだすずきかのんのパーカッションも。
まだまだ知らないすごい奴らがいることが嬉しい。金沢のお客さんにもぜひ観てもらいたいステージである。呼ぶよ、絶対!
(井口時次郎)
まずは見た目のインパクトがすごい。ピエロを模したような衣裳をまとったショルヘーノと女子プロレスラーのコスチュームを着た(しかもすべて自作!)すずきかのんの2人組「スパニッシュスープレックス」。小さな小さな会場に、音だけではなく彼らの存在そのものが満ちていた。
手を伸ばせば届く距離で魔法のように動く指先を見ているだけでショルヘーノの世界観に包まれる気がした。そして、すずきかのんのパーカッションも高い技術はもちろんだが、音楽に疎い私がもっと印象的だったのは彼女の目線だった。もう何度となく共に演奏をしているはずなのに、彼女の目線は一つたりともその音を逃すまいとショルヘーノに注がれていた。
・・・これは二人芝居だ。私はそう思った。稽古を重ねたうえでアドリブも許容する熟練の二人芝居。プロゲキ!の舞台に彼らを招聘したプロゲキ富山石川雄士の慧眼に感嘆せざるを得なかった。
(継木承一郎)
【姫川あゆり】
主人公は中学を卒業し、高校に入る前に目の病気となり、遠くない未来に失明してしまうと告げられる。失意の中、それでも残された時間に自分のやりたいことをやろうと決意し、演劇を志す。真剣に演劇に取り組む姿を見てだろうか、彼女に告白してくる何人かの男性たちと付き合うようになる。しかし彼女は自分が真剣になる前に告げるのだ。「わかれてください」と。
もちろん、目の病気という設定はフィクションであろうが、それ以外の演劇や恋愛のエピソードは姫川自身の体験をそのまま生かしているのではないかと思えるほどのリアリティがあった。特に子供の頃からかわいがってくれたおばあちゃんが亡くなるあたりは、思わず涙腺が緩む思いだった。
さまざまな出来事が彼女を取り巻き、自分自身で企画した公演も延期せざるを得なくなった彼女だが、それでも前に進んでいこうとする姿には好感が持てた。そうだ、青春なんていいことばかりじゃない。苦い思いも後悔もあったはずだ。今回の作品はフィクションという形は取っているが姫川あゆりのリアルな「青春」なのだろう。
今回のプロゲキ富山の公演タイトル「departure(出発)」は、これからもチャレンジを続ける姫川へのエールだろう。筆者もささやかながら彼女を応援したいと思う。
(継木承一郎)
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