



以下、文字情報です。
(総評)
毎回のことだが、プロゲキ富山を率いる石川雄士のプロデュース力には感心する。これまでにも観たことがないような演者たちを舞台に上げてきた。び~めんぷろじぇくと、元井康平、劇団やてみよ、ショルヘーノ・・・まさに枚挙にいとまがない。そして今回も池田シンを富山(だけとは限らないが)の観客に紹介したことは大きな意味を持つはずだ。そのくらい池田の舞台は刺激的だった。詳細は後述するが、技術はもちろん高いのだが、それ以上に「演じる身体」が魅力的だった。語らずにはいられない存在。演じることが生きることと直結するような俳優がそこにいた。そしてまたそれを手を伸ばせば届く距離で生で観られることがうれしい。そんな贅沢な時間だった。
富大お笑いサークル‘97は学生のライトなサークル活動の域ははるかに超えている。何よりメンバーの意識が高い。意欲的で野心的なところが毎回魅力的である、。
そして今回は富山を中心に活動するアイドルである日向みさきの一人芝居も上演された。Charlie’s Studioの舞台にアイドルが上がるというのもすごい。劇中に自身の歌も披露し、客席を盛り上げていた。
こんなに刺激的な演者がいる。金沢富山を問わず、これをどうやって多くの人に伝えていくか。そこがプロゲキ全体の課題と言えるだろう。
(継木承一郎)
(富大お笑いサークル’97)
私はプロゲキ富山で彼らの舞台を観るのが3回目となった。2回目の時は「あれ、前と同じネタやったりするんだ」と思ったが、逆に1回きりではないことでネタが練られているように思った。今回も「森のカフェ」のネタは入っていたが、ショートバージョンともいうべき内容になっていた。やり慣れてる感じも悪くなく、自信を持って演じられているように感じた。
そう、彼らはプロっぽいのだ。その部分に好き嫌いはあるかもしれない。しかし私はそこに彼らの矜持を感じる。「俺ら結構やれますよ」という(いい意味の)生意気さがある。彼らがこのあとどこまで行くのか。見届けるのも楽しみじゃないか。
(継木承一郎)
(日向みさき)
アイドルの世界というのは不勉強でほとんどよく知らないのだが、彼女は「セルフプロデュースアイドル」ということなので、事務所などの組織に属さずフリーで活動しているということなのだろうか。しかも今回は「一人芝居」に初挑戦ということで、劇中で使用する「声」もご家族に協力してもらったとカーテンコールで話をしていた。ほほえましい話で応援したくなるのもわかるなあとオジサンは思ったりしたのだが、こと芝居に関してはマジメにコメントしたい。
主人公は彼女自身をデフォルメしたようなキャラでアイドルを目指している人物なのだが、逆に自分に近すぎて難しそうな気がした。どことなく落ち着かないような。一方劇中で歌う場面では非常に生き生きとしていた(実際に歌った3曲のうち2曲は彼女のオリジナルで普段から歌っているものらしい)。彼女の普段のステージはさらにエネルギーに満ちたものなんだろうと想像できた。
しかし。
アイドルとはもちろんその名の通り偶像でありある意味虚像である。彼女ももちろんステージに上がる前にチャンネルを切り替えるようにアイドルを演じていることだろう(もはや演じている意識もないかもしれないが)。
自分と地続きのものを演じる時には落ち着かず、「キャラクター」になると切り替えられるというのはどういう心理なのだろう。むしろこの「自分」の境界線そのものを作品にすれば、彼女にしかできない舞台になったのではないか。
彼女にとって2回目の挑戦があるかどうかはわからない。が、私は観てみたいと思った。
(継木承一郎)
(池田シン)
今回プロゲキ富山の石川雄士は公演タイトルを「Last Boss Coming」とつけた。とすれば、メインイベントを務めた池田シンこそが石川の言う「ラスボス」なのだろう。
俳優とは、演劇とは。
あるいは気恥ずかしくて真正面から発言しないかもしれないことに、直球で斬りこんでこられた気がした。私は俳優ではないが、文章を書く者として「お前は何を書くんだ、自分の中に蠢くものを恐れずに形にしているか」という強いメッセージ。それは終演後に短いインタビューをさせていただいた時にも強く感じた。
池田曰く、作品の構成やテーマを先に考えたりするわけではなく、散歩しているときに心に浮かんだものをセリフにしたり歌にしたりすることで創りあげていくのだそうだ。それは自分の中にあるものでしか勝負はできない、借り物じゃダメだという池田のあり方そのものだった。
演劇は通常の場合、劇作家や演出家がいて俳優はそれらの指示に従って作品の一部として機能していく。しかし一人芝居の場合はその限りではない。特に俳優自身がイチから創作をする場合にはまるごと自分が作品となるのだ。言い訳なし、逃げ道なし。
11月に金沢市民芸術村で開催されるプロゲキ金沢富山の合同公演「プロゲキ・ネットワーク」にも池田は出演するとのことだが、本人曰く今回とはまったく違う作品とのこと。まだまだ奥が深そうだ。
そりゃそうか、彼は「ラスボス」なのだから。
(継木承一郎)
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