(6・11劇評)人生のいつどこでだって夢は持てる

劇団ドリームチョップ「プロゲキ!ドリームチョップLIVE」(以下「プロゲキ!」)は今回の公演で2回目となる。演劇初心者でも観やすい、30分程度の短編劇を3作品上演する、というコンセプトは第一回と変わらない。会場も前回と同じ、公共交通機関で来やすい街中のライブハウスだ。学生の来場も考慮し、開演時間は11時と14時としてある。第二回を迎えての大きな変化は、客演があることだ。客演は、まだ若い団体ながら着実な成長を見せている、演劇ユニット浪漫好(以下、浪漫好)である。

13時30分開場の10分後より「Future Stage」として、それまでスタッフとして会場整理にあたっていた、姫川あゆりが舞台に上がった。彼女は高校生であるが、舞台俳優としてさまざまな場で経験を積んでいる。姫川は「プロゲキ!」主催者である井口時次郎との出会いや、井口の印象などについて話すが、会場後方にいるらしい井口からツッコミの声が入る。彼女は井口についての喋りを止め、詩を披露すると言うと、ゆっくりと体を動かし始めた。誰の何という詩かはわからなかったが、身体表現と共に語られる言葉を、「私はこういう人間だ」という、彼女の懸命な自己紹介として興味深く受け取った。

そして本編の始まりである。まず、浪漫好がBGMに乗って、会場後方から舞台へとやってきた。ピストルやバズーカを持った俳優もおり、プロレス的演出が垣間見られる「プロゲキ!」のイメージに合わせて、気合いの入った自己紹介を行う。そして、自身のテーマソングをバックに、水色のガウンを羽織った井口が登場し、舞台へと上がる。井口は「プロゲキ!」の主旨を説明する。全員が一度、舞台後方へとはけ、井口の一人芝居による1st stage「地図が読めないワタシ」が始まった。

「地図が読めないワタシ」は、そのタイトル通り、「地図が読めない人あるある」であった。かつて流行した本『話を聞かない男、地図が読めない女』を引き合いに出し、男脳と女脳についての話から芝居は展開する。井口は、脚本を書く際に他者について想像したり、おしゃべりが好きだったりする自分は、女脳が強いかもしれないと話す。この男脳・女脳の分類は科学的根拠に乏しいらしいのだが、傾向としてうなずける物があるため、説としてこれだけ広まっているのだろう。

ともあれ、井口は地図が読めない。知らない街で初めて行くホテルに、井口は無事たどり着けるのか。駅を出た井口は、早速、目印となる吉野家を見つけることができない。自分が迷いやすいことをわかっている井口は、前もって下調べをしてきたのに、である。ここで「下調べをしておこう!」といったふうに、「地図が読めない人へのアドバイス」が挟み込まれる。Googleマップが妙な指示を出してきたり、吉野家ではなく「すき家」が目撃されたり、なんだかえらい遠回りをさせられたりして、井口は気付く。駅の出口を間違えたことに。しかし、ここで駅まで戻ろうとしないのが、地図が読めない人なのであった。当然、調べていない道がわかるはずはなく、井口はこの後も迷いに迷う。井口はアドバイスする。「冒険はしなくていい」と。地図が読めない人なら共感すること間違いなしの作品だった。地図が読める人は「なんでそんなことになるんだろう……」と思ったのだろうか。

2nd stageは浪漫好による「ジンセイホケン」である。そこは死後の世界。天国や地獄、そして来世への入り口の手前で、天使(岡島大輝、荒地美咲)が2人、死者を待っている。天使たちは死者に来世で幸せに生きられるように「保険」をかけないかと勧める。ただし、その対価として人は、来世での寿命を何年分か天使に渡さなければならない。天使たちはその寿命で生き永らえているのだ。

死者(市川由紀乃)がやってくる。過労死した彼女は、もう何もかもがどうでもいい。寿命の条件を聞いても「太く短く生きるってことでしょ」と保険の契約を結び、来世へと向かう。ところが、次の人生で大金を得た彼女は、それゆえ様々な悪人を引き寄せてしまったらしく、不幸のうちに亡くなってしまう。天使たちは、次こそはとまた彼女に保険をかける。しかし、天使たちは転生した人物をすぐに見つけることができないらしく、ようやく見つけた時には、彼女はストーカー被害に遭ってしまうのだ。

三度目、転生した彼女は、今度は学生の時に、天使たちに発見される。彼女は進路面談を行うところだったが、特にやりたいこともなく、勉強などを押しつけてくる大人たちに辟易している。そこにクラスメイト(神保柊太)が現れる。楽天的な彼と話すことで、彼女は笑顔になることができた。二人の交流はその後も続いていく。彼女の寿命が尽きるはずの時を過ぎても。幸せになった2人の様子を見ていた天使が、契約を破棄したのだ。

天使が願うのは人の幸せである。ただ、彼らも生きていかねばならない。よって寿命という交換条件があるわけだが、それを無視しても人の幸せを願ったところに、天使という存在が本来持っている慈悲の心を見た。この「ジンセイホケン」は2022年11月に「かなざわリージョナルシアター」で上演された「人生保険」と設定を同じくしている。この設定を使って、さまざまな人生を描いてくことができるだろう。

Main Eventは井口の一人芝居「あの角の向こうに」。劇中の井口は、かつてはマンガを描いて評価もされていたのだが、今は誰が描いてもいいようなイラストの仕事をしている。そこに情熱はない。そんな井口の元に同窓会の知らせが届いた。一瞥してそれを捨てる井口。しかしその後、かつてのクラスメイト香村から、同窓会で会わないかと電話がかかってくるのだ。同じクラスだったことは思い出せたが、特別に仲が良かったわけではない。井口は断るのだが、電話は何度もかかってくる。無視していた井口だが、気になって、別の元クラスメイト、河津に香村のことを尋ねてみる。香村はプロレスラーになっていた。怪我などのアクシデントがあっても必ず復活する彼は「鉄人」と呼ばれているらしい。そのように活躍している彼がなぜ自分にと、ますます香村の意図がわからなくなる井口。しばらくして、井口が世話になっている編集者から電話がかかってくる。もう仕事は頼めないというのだ。井口は、思わず香村に電話をかけてしまう。しかし、電話に出たのは彼の妻だった。妻は彼が井口のマンガを愛読していたことを明かす。井口が連載途中で投げ出したため終われなかったマンガを、終わりがないからいいんだと、彼は言っていたと。そう言いながらも、彼は終わりが気になっていたのではないかと。井口はマンガの続きを描こうと決め、編集者に連絡する。

井口、香村、河津、香村の妻の4人を、井口は自然に演じ分けていた。場所を移動するなどの振りを伴わず、声や口調によってぱっとキャラクターが変わる。しかもそれが観ていてわかりやすい。井口が一人で何役まで演じ分けられるのか、ちょっと観てみたい気がした。

「Future Stage」に出演した姫川は若いうちから目標を定めて、夢に向かって努力を続けている。そこには困難もあるだろうが、夢がある、それは幸せなことだと思う。「ジンセイホケン」に登場した学生は始め、やりたいこともなく鬱々と日々を過ごしていた。だが理解者が現れ、彼女は生きる意味を持つことができた。「あの角の向こうに」の井口は夢や希望を失っていたが、かつての自分の夢の成果が誰かを救っていたことを知り、夢を取り戻す。それぞれの人生の中にある夢や生きがいが、今回の「プロゲキ!」に共通して見られた。

まだ自分が何者かもわからない若い時代に見る夢と、歳を重ね自分を知った上で改めて見る夢は、だいぶ違う物だろう。だが、夢が気力を沸き立たせ、行動の原動力となることは、いくら歳を重ねようとも変わりがない。叶うかどうかわからない夢であっても、その夢を見つめて動いた時間は、かけがえのない大切な宝物になる。そもそも「演劇」という表現手段を見つけて、自分の物にできている段階で、井口たち俳優は幸せだと思う。目指す物に手を届かせることは大変だろう。しかし、手を伸ばしてみたことでしかわからない何かがあるはずだ。

そしてその、夢に向かって懸命に手を伸ばす姿を間近に見ることで、観客も感化される。観た物事を自分の中で捉え直す。自身の中にある夢も揺り動かされるかもしれない。時にそんな熱意の連動が起こるのは、演劇という、生の表現の強みである。演劇を普段観ていない人にも届けたいという井口たちの思いは、人から人へと伝播していく熱を、より多くの人に感じてもらいたいということでもあるのだろう。

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大場さやかnote:https://note.com/sayakaya

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