【号外】2代目怪談王は茶谷幸也に!

(リンク)大場さやか劇評「怖がる想像力が刺激される」

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大場さやか劇評「怖がる想像力が刺激される」

※以下、文字情報です。

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8・24『怪談』は実話風の怪談語りをきっちりと演り切った茶谷幸也に軍配が下った。初回(11時回)では「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」で嫉妬に狂う老女を情念たっぷりに語ったかはづ亭が制した。しかし14時回ではネタを変更し恐怖という点では茶谷に一歩譲る形となった。井口・山口もそれぞれ持ち味を発揮し、14時回終了時点ではかはづ亭が一歩リードするも4人ともにチャンスがあるデッドヒートとなった。

明暗を分けた最終回。それぞれに勝利を目指して気負いや焦りが見えた中、茶谷だけが淡々と自分のネタをやり切った。長年の経験や技術はもちろんだが、勝ちを焦らないメンタルの強さが最後の差につながったのではないだろうか。また一人、実力者がプロゲキの舞台に上った。

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優勝した茶谷は、自身の実体験をもとにした創作怪談「サンバ」で怪談王の座に就いた。

信号待ちで突然車に乗り込んできた老婆、帰り道に不意に現れた老婆、狭い道路で追い抜かねばならなくなった老婆。三人の老婆を同一人物に見立て、さらに3人目の時は車の側面から激しい衝突音がして、老婆の顔を見ずに逃げ去ったとし、あの時、老婆の顔をもし見ていたら…と「お話の余白」を作るところも心憎い。実体験のリアリティ、構成の巧みさ、そしてそれを語り上げる茶谷の鍛えられた声と技術。それらが相まって、観客が聞きたい「怪談らしい怪談」に仕上がった。インタビューでは「たまたまです」と謙遜したが、間違いなく実力者である。金沢に茶谷幸也あり、であった。

井口、3位に沈む

「山にこもるしかない

井口は地下室に閉じ込められた男の精神が徐々に破壊されていく様子を「暗やみの中」という一人芝居として演じた。多重人格的な「もう一人の自分」を演じたり、ラストシーンでは写真のように血糊を顔に塗りたくるなど演劇のテイストを前面に出した作品ではあったが、幽霊や怪奇現象、不思議な話といった内容ではなかったため、これを怪談と呼んでいいのかという疑問が残った。このあたりも票が伸びなかった一因ではないだろうか。

昨年12月の風李戦、今年6月の杏亭キリギリス戦、そして今回と、観客投票では3連敗となった。本人曰く「山にこもるしかない」大ピンチを乗り越え真のプロゲキラーとなれるのか。これからに注目である。

痛恨のネタ変更

「落語家ですから」

そのコケティッシュな魅力から子どもやちょっと抜けた人物を演じることを得意としていたように感じていた彼女だが、昨年の「死神」に続いて今年の「真景累ケ淵」と大人の表現に磨きがかかってきた。特に今回は嫉妬に狂う老女の苦悩と怨念がひしひしと伝わってきた。しかし14時回ではネタを変えて怖さだけでなく笑いも狙ってきた。結果としてはそこで逆転を喫するのだが、「笑わせて怖がらせて、そして勝つ」という落語家としての矜持を強く感じた。

新しい扉を開く

「またいつか金沢で」

東京で活躍する怪談師がプロゲキの舞台に上がるという点で非常に注目を集めたが、ほぼアウェイという状況で票を伸ばすことができなかった。しかし金沢出身ということもあり、再びプロゲキに上がる可能性は十分ある。次回に強く期待したい。

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